法律事務について

医療行為については医師免許等の資格ある人しかできないというのと同様に,法律事件に関する業務は基本的には弁護士等の資格ある専門家しかできません。

弁護士法72条は非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止について定め,これに違反した場合について同法77条3号で刑事罰(2年以下の懲役又は300万円以下の罰金)の対象になると規定しています。

医療行為については専門的な知識を大学等で学び,経験を積まないとできないものであることは社会的に広く知れ渡っています。身体の仕組みや病気の症状,治療方法について,にわか仕込みの勉強で身につけることはできません。他方で,法律事件については,必ずしもそのように考えている人は意外に少ないのではないでしょうか。例えば,離婚問題等については身近な問題であり,インターネットが発達した現代では,それらしい知識を得ることは容易であり,弁護士のような回答をすることができると考える人もいるかもしれません。しかしながら,インターネット上の知識が正確だとは限りませんし,法律事件の見通等についてもある程度の経験を積まないと分からないはずです。法律事務についても,容易には身につけることはできないのです。

これに対して,そんなことを言っては日常のトラブル等は全て法律事件の対象となる可能性があり,資格がなければ,日常のトラブルについて相談を受けて回答することもできないのかと思われるかもしれません。もちろん,そんなわけはなく,弁護士等の資格ある者しかできない事柄か,そうではないかについての基準はあります。

そもそも,非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止の趣旨について,裁判例では「弁護士は,基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし,ひろく法律事務を行うことをその職務とするものであって,そのために弁護士法には厳格な資格要件が設けられ,かつ,その職務の誠実適性な遂行のため必要な規律に服すべきものとされるなど,諸般の措置が講ぜられているのであるが,世上には,このような資格もなく,なんらの規律にも服しない者が,みずからの利益のため,みだりに他人の法律事件に介入することを業とするような例もないではなく,これを放置するときは,当事者その他の関係人らの利益をそこね,法律生活の公正かつ円滑ないとなみを妨げ,ひいては法律秩序を害することになるので,弁護士法72条は,かかる行為を禁圧するために設けられたものと考えられる」と判示しています。

他の裁判例では,弁護士資格等がない者らが,ビルの所有者から委託を受けて,そのビルの賃借人らと交渉して賃貸借契約を合意解除した上で各室を明け渡させる業務を行った行為について,弁護士法72条違反の罪が成立するとして有罪判決を下したものがあります。

事情について深く検討しなければなりませんが,弁護士資格等がない者が「報酬目的」で「業務として」法律事務を行っているときは弁護士法72条違反になる可能性が高いと思います。

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